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最高裁判所第三小法廷 昭和51年(行ツ)98号 判決 1982年2月23日

上告人

株式会社ササヅ

右代表者

笹津進

右訴訟代理人

吉原大吉

被上告人

足立税務署長

深澤忠雄

右指定代理人

古川悌二

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉原大吉の上告理由について

原審が適法に確定したところによれば、(一) 青色申告法人であつた訴外株式会社名工金属製作所(以下「訴外会社」という。)は、昭和四〇年八月一日から昭和四一年七月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税につき、法人税法五七条(昭和四三年法律第二二号による改正前のもの)の規定により本件事業年度前の事業年度において生じた欠損金額の一部に相当する金額を所得の金額の計算上損金の額に算入して、昭和四一年一〇月一一日、課税標準額を零とする青色申告書による期限後の確定申告をした、(二) 所轄の税務署長である被上告人は、訴外会社を昭和四三年一月一三日に吸収合併した上告人に対して、同年五月二八日に訴外会社についての青色申告の承認を本件事業年度にまでさかのぼつて取り消したうえ、これにより青色申告書以外の申告書による申告とみなされることとなつた前記の確定申告につき、同年八月三一日、前記繰越欠損金の損金算入を否認して課税標準額及び税額を増額する更正処分及び無申告加算税賦課決定(以下「本件更正処分等」という。)をした、(三) ところが、被上告人は、昭和四九年九月六日に至つて先にした訴外会社についての青色申告の承認の取消処分を職権により取り消した、というのである。そして、論旨は、要するに、被上告人のした青色申告の承認の取消処分の取消によつて訴外会社は本件事業年度においても青色申告法人として青色申告書による確定申告をしていたことになり、本件更正処分等には違法に繰越欠損金の損金算入を否認して課税標準額及び税額を過大に算定した重大かつ明白な瑕疵があつて、これを無効とすべきものであるから、本件更正処分等にはなんら瑕疵がないとして本件更正処分等の無効確認を求める上告人の請求を理由がないものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背がある、とするものである。

そこで検討するに、本件更正処分等の後にされた青色申告の承認の取消処分の取消によつて、訴外会社は遡及的に青色申告法人としての地位を回復し、青色申告書以外の申告書によるものとみなされた本件事業年度についての確定申告も青色申告書による申告であつたことになるから、青色申告書以外の申告書による確定申告に対するものとして繰越欠損金の損金算入を否認してされた本件更正処分は、その限度において課税標準額及び税額を過大にしたこととなつて、青色申告の承認の取消処分の取消によつて後発的、遡及的に生じた法律関係には適合し判旨ないことになる。しかしながら、このような場合、課税庁としては、青色申告の承認の取消処分を取り消した以上、改めて課税標準額及び税額を算定し、先にした課税処分の全部又は一部を取り消すなどして、青色申告の承認の取消処分の取消によつて生じた法律関係に適合するように是正する措置をとるべきであるが、被処分者である納税者としては、国税通則法二三条二項の規定により所定の期間内に限り減額更正の請求ができると解するのが相当である。そして、このような場合における納税者の救済はもつぱら右更正の請求によつて図られるべきであつて、課税処分についての抗告訴訟において右のような事由を無効又は取消原因として主張することはできないものというほかはない。そうすると、右のような事由が本件更正処分等の無効原因にはあたらないというに帰する原審の判断は、結論において正当として是認することができる。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(環昌一 横井大三 伊藤正己 寺田治郎)

上告代理人吉原大吉の上告理由

一、原判決は判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。

即ち、原判決は被控訴人のなした無効事由の主張たる、本件課税処分が青色申告承認取消処分の取消により法人税法第五七条(昭和四三年法律第二二号による改正前のもの)に規定する繰越欠損金の損金算入を懈怠した点に対し、理由第二項において「青色申告の承認は申告の方法を規制する行政処分であつて、その承認ないし取消と、課税処分とは全く別個の行政処分である」とし、「既に確定した課税処分がさかのぼつてかしのあるものになることはなく、また、承認取消処分の取消された時点においてかしのあるものに変ることもない」から「右主張は理由がない」とする。

しかしながら、右判断は次のとおり法人税法第五七条、国税通則法第二三条の解釈・適用に誤りがある。

1 法人税法第五七条は、青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越しに関し、「当該欠損金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する」(同条第一項)と規定する。算入することを得、ではなく「算入する」のであり、当該の場合、課税庁の裁量によつて算入する、しないを左右されることなく、算入されなければならないのである(必要的)。

2 青色申告制度は、申告納税制度を円滑に機能させるために、信頼すべき帳簿書類を備え付け、その継続記帳に基いて適正な申告を行なう納税者に対して種々の特典を与えるものであり、現実の企業にとつてその特典の主たるものは、右の繰越欠損金の損金算入の制度である。

ところで、この青色申告書提出承認の取消処分は課税庁がなす、申告制度の適正な運用を回復する手段であるが、課税庁側の一方からのみ信頼関係の消滅を主張し、納税義務者に与えられた各種の特典を奪うもので、法はこの為取消し事由を制限的に列挙している。従つて、青色申告の承認やその取消は、原判決が判断するように単に「申告の方法を規制する行政処分」ではなく、各種の特典を伴つた納税者の資格に関する行政処分と言うべきである。なるほどそれは形式上本件課税処分とは全く別個の行政処分であるかも知れないが、本件更正処分による課税標準の大部分は、青色申告が取消され、その特典である繰越欠損金の損金算入がなされなくなつた為に発生したものであり、観念的に区別出来ても実質上は同一である。もともと青色承認取消処分と更正処分とは共に申告制度の適正な運用を回復させる制度として同一目的の為に存在するものである。

3 本件の場合、名工金属は昭和三九年度において前事業年度の控除未済欠損金一、二〇七万三、二四九円、当期欠損金一、六〇一万四、四三三円を有していたのであるが、右欠損金の生じた昭和三九年度及びその前事業年度において青色申告書である確定申告書を提出している。そして、昭和四九年九月六日の青色承認取消処分の取消により、昭和四〇年度においても青色申告の承認を受けていたものとして青色申告書である確定申告書を提出していたことになる。そうすると法人税法五七条第一項の規定により、右欠損金の合計額は名工金属の昭和四〇年度の所得金額の計算上損金の額に算入しなければならず、課税庁である被上告人はこの損金算入をしなかつたのであるから、課税標準たる所得金額の認定には当然法令違反の瑕疵がある。即ち本件更正処分の瑕疵に外ならない。

4 実質的に考えて、課税庁は元々欠損金に相当する金額については税金を取れないにもかゝわらず、本件の如く一旦青色承認の取消をした以上、それが後になつて復活しても課税は課税であるとして、本来取れない税金を取りあげるのが果して法の趣旨であろうか。

5 原判決は国税通則法第二三条の規定が設けられていることを判断の理由とする。しかし、同条は、本件の如く、青色申告承認取消処分の職権取消処分により税額に変更をきたす場合には適用されない。

本件の場合に考えられるのは同条二項一号であるが、青色申告の承認やその取消は直接には前述の如く納税者の資格に関するもので、税額等の計算の基礎となる事実に関するものではないから、同条の更正の請求の制度の適用はない。又課税庁による職権取消処分は、同条文にいう判決や判決と同一の効力を有する和解その他の行為には該らない。

二、原判決は、行政行為の効力に関しての先例と相反する判断をなしている。

即ち、原判決は、課税処分は課税処分として別個に「確定」すると判断している。この「確定」とは行政行為たる課税処分の効力として如何なる意味をもつものであろうか。「行政行為が違法の行為であるに拘らず、権限ある機関によつて取消のあるまで、一応、適法の推定を受け、相手方はもちろん、第三者も国家機関もその効力を否定することを得ない効力をいう」(田中二郎行政法総論三二一頁以下)との、いわゆる公定力をさすのであれば、無効の行政行為はこの意味での公定力を生じない行為であるから(最高判昭和三〇年一二月二六日民集九巻一四号二〇七〇頁、同昭和三一年七月一八日民集一〇巻七号八九〇頁)、原判決の判断は先例に違反し、誤つている。そしてこの判断の誤りは、確定するから青色承認が復活しても、課税処分には瑕疵はないとの判断を導いているが故に、判決に影響を及ぼすことが明らかである。

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